糖尿病の温泉療法?
2018.10.31
 1030日に糖尿病アーベントに参加してきました。私は初めての参加だったのですが、これまで160回を数える歴史ある会のようです。アーベントの意味がわからずネットで調べたところ、Abendとは夕方から始まる音楽会・映画会・講演会の意味だそうです。お洒落なネーミングですね。

 今回は熊本大学の荒木先生が特別講演の講師でした。勉強になる話ばかりだったのですが、ヒートショックプロテインの話がとても面白かったので紹介したいと思います。

 糖尿病には、血糖を下げるインスリンの分泌が低下する1型糖尿病と、インスリンは十分に出ているにもかかわらず血糖値が下がらない2型糖尿病があります。インスリンの効きが悪くなる状態をインスリン抵抗性と呼びます。インスリン抵抗性には色々と原因があるのですが、細胞レベルでヒートショックプロテイン72の量が下がるとインスリンが働きにくくなるそうです。熊本大学の内分泌・代謝内科では、ヒートショックプロテイン72の量を増やす治療を開発中とのことでした。

 そこで、これまでヒートショックプロテイン72を増やす方法がわかっていないかどうか調べてみると、運動がヒートショックプロテイン72を増やすようです。運動が糖尿病に良いのには科学的根拠があったのですね。

 一般的にヒートショックプロテインは熱により誘導されるのですが、何とお風呂に入ると糖尿がよくなるという論文が1999年に報告されていました(Hooper, New Engl J Med)。8名の糖尿病患者さんに週に6日間、37.8から41.0度のお風呂に肩まで30分間つかってもらい3週間後に血糖値を調べたところ、治療前は平均182 mg/dLあった空腹時血糖が159 mg/dLまで改善したそうです。中には体重が減り、インスリンを減らすことができた人もいたそうです



 なかなか運動を続けるのが難しい患者さんもいますよね。入浴療法、温泉地の大分県にはぴったりの治療法ではないでしょうか。でも、のぼせないように注意してくださいね。

2018.10.31 17:48 | 固定リンク | 糖尿病
インスリンとグルカゴンのバランスからみた糖尿病
2016.04.27
最近、糖尿病研究に大きな進展がありました。学会や講演会などで取り上げられることも多く 、新しい薬も出てきていますので紹介したいと思います。(自分の備忘録も兼ねていますので、わかりにくい部分もあるかと思いますがご容赦ください。)

糖尿病は血糖値が異常に高くなる病気です。軽い場合は症状は出ませんが、進むと喉が渇いたり、尿が近くなったり、意識が悪くなったりすることがあります。長い間、治療せずにいると、心筋梗塞、脳梗塞や腎不全の原因になるので治療が必要です。

図1

私が学生の頃は、糖尿病はインスリンの作用不足によってなる病気だと教わりました。インスリンは血糖値を下げるホルモンで膵臓のβ(ベータ)細胞から出ます。糖尿病は、インスリンの量が少ないために血糖値が上がるタイプと、インスリンの量は十分あるにもかかわらず血糖値が上がるタイプがあります(図1)。インスリンが多いにもかかわらず血糖値が高い状態はインスリン抵抗性と呼ばれています。インスリン抵抗性には色々な原因がありますが、最近、グルカゴンが注目を集めています。

図2

グルカゴンは血糖値を上げるホルモンで、膵臓のα(アルファ)細胞から分泌されます。学生時代の試験の山の一つなのですが、グルカゴンはグルっとまわるからα細胞と覚えた記憶があります(笑)。

図3 Müllerら, N Eng J Med, 1973より

図3は、健常者と糖尿病患者で食後の血糖、インスリンとグルカゴン値の推移をみたデータです。黒が健康な人、赤が糖尿病の人のパターンです。健常者では食後にインスリンが分泌されグルカゴンは抑制されるのに対し、糖尿病ではインスリンが十分に分泌されず、逆にグルカゴンが上昇しています。糖尿病ではインスリンだけでなくグルカゴンの分泌異常があることがわかります。
図4

内科学会で山口大学の谷澤先生が講演されていたのですが、糖尿病が進むにつれてインスリンを出すβ細胞は減少しグルカゴンをつくるα細胞に置き換わっていくそうです(図4)。

また、グルカゴンが働かないネズミではインスリンがなくなっても糖尿病にならないというのです(Lee ら, Diabetes, 2011)。


図5

以上をまとめると、糖尿病はインスリンとグルカゴンのバランスがくずれた結果、血糖値が上がる病気だということが理解できます。




図6

最近、糖尿病治療でよく使用される薬にDPP4阻害薬があります。DPP4阻害薬は、消化管ホルモンであるインクレチン(GIPとGLP1)の働きを強くする薬です。インクレチンはインスリンの分泌を促すのですが、特にGLP1はインスリン分泌を促すだけでなくグルカゴン分泌を抑える働きがあります。GLP1も注射薬として日常的に使用されています。特に日本人の場合、欧米人に比べDPP4阻害薬やGLP1が効きやすいとのことでした。

今日紹介した内容は糖尿病の一側面で、他にも色々と興味深い研究が進んでいます。今後も目が離せませんね。
2016.04.27 20:30 | 固定リンク | 糖尿病

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