With コロナ時代の考察
2020.08.21
皆様、御無沙汰しておりました。8月に内科学会と感染症学会で新型コロナウイルスに関するシンポジウムが開催されました。演者の先生は尾見先生、脇田先生や館田先生など感染症対策分科会などでご活躍の方々で、とても勉強になりました。例年は東京に出張するのですが、今年は新型コロナウイルス拡大の影響のためオンラインで視聴しました。皆様が普段、心配されていることや知りたいことなどを中心に、これまで分かってきたことをお伝えしていきいと思います。
新型コロナウイルスはいつまで続くのでしょうか?答えは誰も知りません。今年の2月から3月頃は、全国で新型コロナウイルスの封じ込めに努めましたが、残念ながら全国に感染が拡大している状況です。当分の間、我々はこのウイルスと向き合っていかなければいけないようです。
ワクチンはできるのでしょうか。今、世界中で多くの研究機関や企業が新型コロナウイルスに対するワクチンを開発中です。一方、これらのワクチンがコロナウイルス感染症を予防できるかどうは未知数です。過去にもSARSやMERSに対するワクチンが開発されましたが、残念ながら期待する効果は得られなかったようです。逆にワクチンを接種することで病状が悪化するケースも出ました(ADE; Antibody-dependent enhancement)。一般にインフルエンザなどの呼吸器感染症は気道でウイルスが増殖するため、血液中にある免疫細胞はこれらのウイルスを十分に排除できません。インフルエンザワクチンには症状を軽減する効果はありますが、ワクチンを接種した方でもインフルエンザにかかってしまうことがあります。また、現在開発中のワクチンはアデノウイルスやRNAを用いたワクチンで、わが国はこれらの剤型の使用経験がなく安全性も未知数です。現時点でワクチンに過度な期待はできません。
それでは、どうのように私たちは新型コロナウイルスから身を守っていけばよいのでしょうか。新型コロナウイルスの患者さん全員に感染性があるわけではなく、一部の患者さんが密閉、密接、密集といった3密の状況で、マスクをせずに大声を出すことが感染の原因になっているようです。これら3密プラス大声の状況を避けることが大切です。また、マスクなどの感染対策をしてお買い物に出かけても感染の心配はないようです。
尾見先生の講演で印象深かったのは、“クラスターが見つかる=不安“ではなく、”クラスターを制御する=安心“という思考が大切だとのお話です。コロナウイルスのクラスターも小さな段階で発見し対処すれば被害が小さく、知らないうちに広がっていた、という状況が最も危険です。
今後も新型コロナウイルスについて、わかってきたことを書いていこうと思います。
新型コロナウイルスはいつまで続くのでしょうか?答えは誰も知りません。今年の2月から3月頃は、全国で新型コロナウイルスの封じ込めに努めましたが、残念ながら全国に感染が拡大している状況です。当分の間、我々はこのウイルスと向き合っていかなければいけないようです。
ワクチンはできるのでしょうか。今、世界中で多くの研究機関や企業が新型コロナウイルスに対するワクチンを開発中です。一方、これらのワクチンがコロナウイルス感染症を予防できるかどうは未知数です。過去にもSARSやMERSに対するワクチンが開発されましたが、残念ながら期待する効果は得られなかったようです。逆にワクチンを接種することで病状が悪化するケースも出ました(ADE; Antibody-dependent enhancement)。一般にインフルエンザなどの呼吸器感染症は気道でウイルスが増殖するため、血液中にある免疫細胞はこれらのウイルスを十分に排除できません。インフルエンザワクチンには症状を軽減する効果はありますが、ワクチンを接種した方でもインフルエンザにかかってしまうことがあります。また、現在開発中のワクチンはアデノウイルスやRNAを用いたワクチンで、わが国はこれらの剤型の使用経験がなく安全性も未知数です。現時点でワクチンに過度な期待はできません。
それでは、どうのように私たちは新型コロナウイルスから身を守っていけばよいのでしょうか。新型コロナウイルスの患者さん全員に感染性があるわけではなく、一部の患者さんが密閉、密接、密集といった3密の状況で、マスクをせずに大声を出すことが感染の原因になっているようです。これら3密プラス大声の状況を避けることが大切です。また、マスクなどの感染対策をしてお買い物に出かけても感染の心配はないようです。
尾見先生の講演で印象深かったのは、“クラスターが見つかる=不安“ではなく、”クラスターを制御する=安心“という思考が大切だとのお話です。コロナウイルスのクラスターも小さな段階で発見し対処すれば被害が小さく、知らないうちに広がっていた、という状況が最も危険です。
今後も新型コロナウイルスについて、わかってきたことを書いていこうと思います。
不眠症と認知症
2018.10.26
しばらくブログの更新を怠っておりましたが、皆様おかわりありませんでしょうか。学会や講演会で興味深い話を聞き、これは書き残しておこうと思うネタは色々とあったのですが、一度、執筆作業を離れると腰が重くなり....
少しずつでもブログを再開していこうかと思えるほど、目からウロコが落ちる話を聞いてきましたので久々に情報発信したいと思います。
皆様、認知症をご存知でしょうか。認知症とは、一度できるようになったことが脳の機能が障害されてできなくなり、日常生活に支障をきたすようになった状態です。日本では、2012年の時点で65歳以上の方の7人に1人が認知症だと報告されています。最近、不眠症と認知症の関係について、大分大学の石井先生の講演を聞いてきました。
要約すると、
1. 不眠症があると認知症になりやすい。
2. 認知症になると不眠症になりやすい。
認知症と不眠症は互いに悪影響を与える関係にあるそうです。そのメカニズムが2013年にScienceという科学誌に報告されています。脳内にアミロイドβタンパク質が蓄積することが、アルツハイマー型認知症の原因の一つであると考えられています。脳の老廃物は色々な方法で取り除かれるのですが、アミロイドβは睡眠中には覚醒時の約2倍の速さで脳内から除去されるそうです。すなわち、不眠になると脳内にアミロイドβが蓄積し認知症のリスクが高まるというのです。睡眠には、脳から老廃物を除去し脳の機能を健康に保つはたらきがあることが明らかになりました。
日本医師会からの報告によると、日本では不眠症で病院を受診される方が他国と比べて少ないそうです。そういう方は、お酒の力を借りて眠りについているようです。確かに、お酒には寝つきをよくする作用があるのですが、深い睡眠を妨げます。お酒を飲んだ後、何度もトイレで目が醒めるという経験はありませんか?
飲酒も認知症のリスク因子です。
不眠症でお悩みの方は、是非ご相談ください。
少しずつでもブログを再開していこうかと思えるほど、目からウロコが落ちる話を聞いてきましたので久々に情報発信したいと思います。
皆様、認知症をご存知でしょうか。認知症とは、一度できるようになったことが脳の機能が障害されてできなくなり、日常生活に支障をきたすようになった状態です。日本では、2012年の時点で65歳以上の方の7人に1人が認知症だと報告されています。最近、不眠症と認知症の関係について、大分大学の石井先生の講演を聞いてきました。
要約すると、
1. 不眠症があると認知症になりやすい。
2. 認知症になると不眠症になりやすい。
認知症と不眠症は互いに悪影響を与える関係にあるそうです。そのメカニズムが2013年にScienceという科学誌に報告されています。脳内にアミロイドβタンパク質が蓄積することが、アルツハイマー型認知症の原因の一つであると考えられています。脳の老廃物は色々な方法で取り除かれるのですが、アミロイドβは睡眠中には覚醒時の約2倍の速さで脳内から除去されるそうです。すなわち、不眠になると脳内にアミロイドβが蓄積し認知症のリスクが高まるというのです。睡眠には、脳から老廃物を除去し脳の機能を健康に保つはたらきがあることが明らかになりました。
日本医師会からの報告によると、日本では不眠症で病院を受診される方が他国と比べて少ないそうです。そういう方は、お酒の力を借りて眠りについているようです。確かに、お酒には寝つきをよくする作用があるのですが、深い睡眠を妨げます。お酒を飲んだ後、何度もトイレで目が醒めるという経験はありませんか?
飲酒も認知症のリスク因子です。
不眠症でお悩みの方は、是非ご相談ください。
肝臓癌のこと
2017.05.12
皆様、夏のような日がきたり急に寒くなったりを繰り返している今日この頃ですが、体調をくずされていませんか。忙しさにかまけておりましたが、久々にブログを更新したいと思います。
今年も内科学会講演会で勉強してきました。今回は東京大学内科学教授の小池和彦先生が会長でした。小池先生は内科学、特に肝臓の分野ではとても著名な先生です。本日は、会長講演「国民病である肝炎・肝癌の病態解明と克服への歩み」の一部を紹介したいと思います。
みなさん、肝臓癌という病気をご存知でしょうか。一般に、肝臓癌は突然できるものではなく、多くはB型肝炎やC型肝炎ウイルスに感染した後に、慢性肝炎、肝硬変と進み、長い年月をかけて癌ができるとされています。肝硬変の患者さんでは年間に7〜9%の頻度で肝臓癌を発症するため、肝硬変に進まないように注意し、肝硬変の患者さんでは癌を早期に発見できるようエコーやCTなどの画像検査を定期的に行う必要があります。

B型肝炎ウイルスには発癌性があり、肝硬変に進行していなくても癌ができることが知られています。一方、C型肝炎の場合は慢性炎症が癌の原因であり肝臓の数値(トランスアミナーゼ)を低く保っておけば発癌の心配はないと考えられていました。しかし、小池先生のグループは、C型肝炎ウイルスにも発癌性があることを解き明かしました。この研究結果は、C型肝炎の場合もB型肝炎と同様に肝硬変になる前から肝臓癌の検査を行う必要があることを意味します。常識が変わったのです。

小池先生は実際に診察されていた患者さんをきっかけに、C型肝炎ウイルス自体に発癌性があることに気付いたそうです。その患者さんは肝硬変になっていないばかりかトランスアミナーゼも基準範囲内でしたが、肝臓癌を発症してしまいました。
今回の講演のなかで最も印象に残ったのは、
目の前で起こっていることを当たり前だと流してしまわない。日々の診療の中に真実は隠れている。臨床医であるからこそできる研究がある。
という教えです。
「どんな鳥も想像力より高く飛べる鳥はいない。人間に与えられた能力のなかで、一番素晴らしいものは想像力である。」寺山修司の『ロンググッドバイ』を引用されていました。私も若かった頃を思い出しました。
近年、B型肝炎とC型肝炎に対する抗ウイルス薬の開発が進んでいます。特にC型肝炎は治る病気になってきました。これらの治療に興味をお持ちの方はご相談ください。また、自分がB型肝炎やC型肝炎に感染しているかどうかは血液検査で調べることができます。これまで検査されたことがない40才以上の方は、検査費用を市町村が負担する制度があります(健康増進法)。検査をご希望の方もご相談ください。
最近はウイルス性肝炎以外に、アルコールや一部の脂肪肝を原因とした肝臓癌も増えてきています。これらも定期的な検査による早期発見が大切です。以上に注意し、肝臓癌を予防しましょう。
今年も内科学会講演会で勉強してきました。今回は東京大学内科学教授の小池和彦先生が会長でした。小池先生は内科学、特に肝臓の分野ではとても著名な先生です。本日は、会長講演「国民病である肝炎・肝癌の病態解明と克服への歩み」の一部を紹介したいと思います。
みなさん、肝臓癌という病気をご存知でしょうか。一般に、肝臓癌は突然できるものではなく、多くはB型肝炎やC型肝炎ウイルスに感染した後に、慢性肝炎、肝硬変と進み、長い年月をかけて癌ができるとされています。肝硬変の患者さんでは年間に7〜9%の頻度で肝臓癌を発症するため、肝硬変に進まないように注意し、肝硬変の患者さんでは癌を早期に発見できるようエコーやCTなどの画像検査を定期的に行う必要があります。

B型肝炎ウイルスには発癌性があり、肝硬変に進行していなくても癌ができることが知られています。一方、C型肝炎の場合は慢性炎症が癌の原因であり肝臓の数値(トランスアミナーゼ)を低く保っておけば発癌の心配はないと考えられていました。しかし、小池先生のグループは、C型肝炎ウイルスにも発癌性があることを解き明かしました。この研究結果は、C型肝炎の場合もB型肝炎と同様に肝硬変になる前から肝臓癌の検査を行う必要があることを意味します。常識が変わったのです。

小池先生は実際に診察されていた患者さんをきっかけに、C型肝炎ウイルス自体に発癌性があることに気付いたそうです。その患者さんは肝硬変になっていないばかりかトランスアミナーゼも基準範囲内でしたが、肝臓癌を発症してしまいました。
今回の講演のなかで最も印象に残ったのは、
目の前で起こっていることを当たり前だと流してしまわない。日々の診療の中に真実は隠れている。臨床医であるからこそできる研究がある。
という教えです。
「どんな鳥も想像力より高く飛べる鳥はいない。人間に与えられた能力のなかで、一番素晴らしいものは想像力である。」寺山修司の『ロンググッドバイ』を引用されていました。私も若かった頃を思い出しました。
近年、B型肝炎とC型肝炎に対する抗ウイルス薬の開発が進んでいます。特にC型肝炎は治る病気になってきました。これらの治療に興味をお持ちの方はご相談ください。また、自分がB型肝炎やC型肝炎に感染しているかどうかは血液検査で調べることができます。これまで検査されたことがない40才以上の方は、検査費用を市町村が負担する制度があります(健康増進法)。検査をご希望の方もご相談ください。
最近はウイルス性肝炎以外に、アルコールや一部の脂肪肝を原因とした肝臓癌も増えてきています。これらも定期的な検査による早期発見が大切です。以上に注意し、肝臓癌を予防しましょう。
2016/2017年シーズンのインフルエンザ
2017.01.13
2017年1月11日、大分県で1定点施設あたりのインフルエンザ患者数が10を超え、インフルエンザ注意報が出ました。
特に人ごみに出た後は、手洗いを忘れないようご注意ください。咳や鼻水がある時は、マスクを着用しましょう(咳エチケット)。
鼻水、咳、熱や頭痛など、インフルエンザが疑われ症状がある時は病院を受診しましょう。
特に人ごみに出た後は、手洗いを忘れないようご注意ください。咳や鼻水がある時は、マスクを着用しましょう(咳エチケット)。
鼻水、咳、熱や頭痛など、インフルエンザが疑われ症状がある時は病院を受診しましょう。
抗PD-1抗体
2016.12.06
10月に横浜で開催された日本血液学会に参加してきました。薬の開発や研究は日進月歩です。新しい知識を本で勉強するのと、使用経験のある先生から生の声で聞くのとでは、同じ知識でも大きく違います。昔からの仲間とも会うことができ、とても有意義な時を過ごすことができました。
学会で興味深かったのは、抗PD-1抗体についての講演です。ヒトの体内では、毎日、約3,000個のがん細胞が誕生しているそうです。日々、T細胞などによる免疫が、がん細胞を排除しているため健康が保たれています。しかし、がん細胞が免疫から逃れる方法を獲得すると、がん細胞が増えることになります。
ヒトのT細胞にはPD-1という車のブレーキのような物質があります。がん細胞にPD-L1という物質があると、PD-1を介して免疫にブレーキがかかり、がんが排除されなくなります。
これまで、免疫を利用したがん治療の多くが失敗に終わりました。その理由は免疫を活性化するアクセルに注目が集まり、ブレーキに着目した治療法がなかったからです。抗PD-1抗体はPD-1とPD-L1の結合をじゃまして免疫のブレーキをはずし、免疫ががん細胞を攻撃するようにします。

抗PD-1抗体は、悪性黒色腫や肺がんに使用されており、その効果は他の種類の悪性腫瘍でも確認されつつあるようです。抗PD-1抗体のように免疫をコントロールする部分に作用する薬は免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれ、現在、たいへん注目されています。
学会で興味深かったのは、抗PD-1抗体についての講演です。ヒトの体内では、毎日、約3,000個のがん細胞が誕生しているそうです。日々、T細胞などによる免疫が、がん細胞を排除しているため健康が保たれています。しかし、がん細胞が免疫から逃れる方法を獲得すると、がん細胞が増えることになります。
ヒトのT細胞にはPD-1という車のブレーキのような物質があります。がん細胞にPD-L1という物質があると、PD-1を介して免疫にブレーキがかかり、がんが排除されなくなります。
これまで、免疫を利用したがん治療の多くが失敗に終わりました。その理由は免疫を活性化するアクセルに注目が集まり、ブレーキに着目した治療法がなかったからです。抗PD-1抗体はPD-1とPD-L1の結合をじゃまして免疫のブレーキをはずし、免疫ががん細胞を攻撃するようにします。

抗PD-1抗体は、悪性黒色腫や肺がんに使用されており、その効果は他の種類の悪性腫瘍でも確認されつつあるようです。抗PD-1抗体のように免疫をコントロールする部分に作用する薬は免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれ、現在、たいへん注目されています。